カリマンタンのジャングルに釣りに行ってきた。その②

釣行記

ついに出発の時が来た。

目的地はセバンガウ国立公園内を流れるセバンガウ川。オランウータンの生息数が最も多く、サイチョウなど貴重な鳥類が数多く生息する熱帯雨林の保護区だ。

夜中の1時過ぎ、辺りには虫の声が響くのみ

ガイドさんの家から10分程で車は止まり、荷物を船に積み込みだした。車で釣り場近くまで行って明るくなったら船で釣りに行くと想像していたら、ここからずっと船だという。

これに6時間も乗るの?

参加者は私とKhusnulさん、カメラマンのChenal君、ガイドさん1名と船頭さん2名の計6名が2隻の船に別れる。

大きめの船に比べて小さい方はかなりボロい。どっちがいい?と聞かれて即答でデカい方と答えたがしれっとKhusnulさんとChenal君がデカい方に先に乗り、ガイドさんと小さい船に乗ることになった。

コーラのような色の飛沫を上げて疾走する船

怖い怖い怖い、あまりの恐怖に身体が固まる。船へりが低いので水と同化しているようだ。飛沫で服はビショビショになり、風を受けるので寒い。

みんなは雨合羽やカサカサの上着を着ていた。何で持ってきてないんだ?と言われたが、持って来いって言われてない。パーカーでいいか?って聞いたらそれでいいって言ってた。

狭い場所もスピードを落とさずに突っ込む

先は長いんだから寝ろよって言われるが恐怖でそれどころではない。船は真っ暗な中を船頭さんの灯り一つで進み、時たま茂みに分け入っていく。救命胴衣は着ているが落ちて取り残されたら間違いなく助からない。ワニがいると聞いていたので嫌な考えが頭から離れない。

一瞬、船頭さんの持つライトが消えると暗闇の中見えるのは頭上に広がる満天の星空だけになる。ジャワ島にいると星なんて滅多に見れない。2年振りに見る星空に心を奪われる。

人間慣れるもので、最初は怖がって固まっていた身体も解け、星空を眺めているうちにいつの間にか眠っていた。

夜が明けて周囲を見渡せるようになった。
船の上の寝心地は悪い。

2時間くらい寝ていたのか、辺りは明るくなっていた。ガイドさんがあそこにテングザルがいるぞ、ガルーダがいるぞって色々教えてくれるがほとんど米粒サイズにしか見えないくらい遠い。ワニもすぐに隠れたが一瞬だけ岸辺に見えた。

この辺りは水深も20m以上あるという。確かにそれでは釣りをして特定の魚を狙うのは難しそうだ。

道中にはいくつかの水上家屋が点在していた。
この櫓の上に登るとギリ携帯の電波が入るらしい。

出発してから6時間、船頭さんの兄弟が持つ水上家屋に一旦船は止まり、トイレ休憩となった。

トイレ(川)

トイレは床板をちょっと外して小さな囲いを付けただけ。しゃがんでも余裕で外から丸見えだ。私は別にいいが、Khusnulさんは女性なので少し気まずい。

この辺りはKampung Walago(ワラゴー村)と呼ばれており、ワラゴーレイリーを始めとする魚を獲って生計を立てる漁師が拠点として使用しているようだ。

Khusnulさんが以前来た時はここを拠点に近くで沢山の魚を釣ることが出来たが、今回は水が増水しすぎており、更に奥地の拠点をベースに釣りをするとのこと。

道なき道を進んでいく

ここからが今回の旅で1番辛かった。奥地は湿原のようになっており、一見、道が無いような所にもどんどん突っ込んでいく。

開けた場所と狭い場所が交互に続いていく。

船のスクリューにすぐに水草が絡むので牛歩だ。1時間で着くと聞いていたが、3時間以上経っても辿り着かない。後10分って言われてからも1時間は経っている。雨による増水でルートが変わっているのが原因らしい。

コーラのような色の川の水。

川を流れるブラックウォーターは本当に美しい。飲んでも全く問題無いとのことで、掬って飲んでみるとめちゃくちゃ薄い紅茶のような味がした。

植物から滲み出たタンニンを含むブラックウォーターはそこに住む魚の色も鮮やかに、他には無い色に染め上げるという。

何度も座礁したり草が引っかかって止まる。

何がキツいって船は自動で進んで藪をかき分けるけど、たまに葉っぱに大量のアリやカメムシが付いていてそこに顔が突っ込むと酷いことになる。

太い木やトゲがある木が進行方向にあると避けないとケガをするので気が抜けない、常に緊張状態だ。時には水中の大きな木に乗り上げて船が転覆しそうになったり、どうしようもなく進まない時はみんなで船を押し出した。

めちゃくちゃ釣れそうだけど、魚は見えない。

一帯全てが水に沈んでいるので陸地が無く、船から降りて休憩することも出来ない。

ふいにガイドさんがあそこを見ろ、と言うので見てみると遠くにワニがいた。向こうはこちらから離れていくが私もパニックになっていた。キツすぎる、もう帰りたい。

樹上にはオランウータンの寝床がある。

辺りを見渡すと木の上に葉っぱが固まっているところが何箇所かある。ガイドさんに尋ねるとオランウータンの寝床だという。色々な場所に寝床を作り、移動しているそうだ。本体はいない。

おお、本当にすごい所に来たなと改めて思う。正直余裕は全く無く、拠点に着くことだけを考えていた。

そして出発してから10時間、疲労困憊の中ついに拠点にたどり着いた…のだが同時に絶望した。

ここに6人で寝るの?

何というか色々オープン過ぎる。普通の水上家屋を想像していたら斜め上だった。トイレすら無い。こんな所で寝られる訳がない。

いや、余裕で寝れるわ。陸地最高。

極度の緊張で疲れきっており、着いた瞬間にそのまま1時間くらい眠っていた。これから腹ごしらえをして釣りに行くというが、すでに釣りをする元気が無い。

簡単な食事を取る。

ガイドさんが家から持ってきたご飯、魚、オムレツを食べる。疲れた身体に染み渡る。

ついに釣りが始まる?

時刻は昼の一時過ぎ、やっと釣りをする時が来た。正直体調は最悪だ、疲れと酷い頭痛がする。しかもここから更に1時間ほど奥に進んだ後で拠点に戻りながら釣りをするという。

魚を釣るってこんなに大変なのかとしみじみ思う。日本ならそこらへんの川行けばどこでも魚は釣れるが、インドネシアは甘くない。

雲行きが怪しい。2隻の船の中で先行をとらせてもらう、正直早く帰りたかった。

今回のタックルはFinchのカナリア68ML、610Mの2本だ。こういった釣行にパックロッドは本当に便利だと実感した。

  • タックル① カナリア68ML + カルコンBFS
  • セッティング PE1号 + リーダー30ld
  • ルアー スピナー、ミニスピナベ
  • タックル② カナリア610M + カルコン200
  • セッティング PE4号 + リーダー50ld
  • ルアー スピナベ
  • アヘ顔パーカー (誕生日プレゼント)
  • 防水パンツ

ガイドさんも釣りをするのだがこの人、かなり自分が釣りたいタイプの人だ。私のキャストにデカいルアーを被せてくるし、ここの魚はナーバスだから静かに、という割に水草が絡んだルアーを思い切り水面に叩きつけたり、良いポイントに先に投げて釣り上げてウッヒョーってなっている。

私が頭痛と慣れない船の上での体重移動に苦戦していると早く投げろとうるさい。海外を知らない頃の私ならキレていただろう。ただ無事に帰ることだけを考えていた。

そうこうしていると私の竿にもアタリが来た。結構引いてドラグを引き出し、木に絡まれてしまう。どうやらフルドラグで魚を一気に引き出さないといけないらしい。船なのでその場に行って無事回収出来た。

Channa pleurophthalma

英名オセレイトスネークヘッド、現地の言葉ではケランダン、体側の模様が花のように見えることから通称フラワートーマンと呼ばれる。この個体は模様が薄い。繁殖期に体色が青になったり紫になる個体がごく一部存在し、青い魚体を見る為に通い詰める日本人もいる。

小さい割に太くて引きはなかなか強い。爆釣とはいかないが投げていると普通にポツポツ釣れる。

私が釣ったのは模様が薄いのばかり
ガイドさんが釣った個体は模様が少し出ている。

ここではフラワートーマンだけでなくロイヤルトーマン、普通のトーマンにストライプスネークヘッド、フォレストスネークヘッドが釣れるらしい。まさにライギョの楽園だ。

ガイドさんはデカいロイヤルトーマンかトーマンが釣りたいらしい。

私は青か紫のフラワートーマンが釣りたいな。と思っているとズドンというアタリが来た。速攻でゴリ巻きして一気に抜き上げる。

Channa Marulioides

英名エンペラースネークヘッド、現地名ガブスカイサル、日本ではロイヤルトーマンと呼ばれている。鮮烈な赤が美しい魚体だ、Kampung batuで釣れたやつのがデカいけどここまで色が違うことに驚く。

セバンガウ川産の30cmの個体が8万ってネットにあったのでこの色で倍のサイズなら10万は余裕で超えるのだろう。船頭さんがコイツは王様だ!美味いぞ、今晩はこいつを食べよう!と言う。

これまで釣れた魚は全てキープされており、これからの食料になる。

結局この日は2時間程の釣りでフラワートーマン4匹、ロイヤルトーマン1匹だった。スピナーから小さいスピナベに変えてから絶好調だったので最初からスピナベだったらもっと釣れてた気がする。スピナーのトレブルフックだと藻や水草が絡んで奥に投げれなかったがスピナべなら大胆に攻めることが出来たからだろう。

サイズが小さいのかバイトは多かったが針掛りしなかったのを含めると10回以上のコンタクトがあった。そこは私が単純に下手くそだから釣れなかったのかもしれない。

空が真っ暗で雷もゴロゴロしていたが釣りの際にスコールに打たれなかったのは運がいい。雨季の雨は局所的な場合が多いので他の場所は大雨が降っていたのだろう。まだ乾期のはずなんだけど、ここ数年はかなり季節の変わり目が曖昧になっている。

インドネシアを代表するインスタントヌードル、インドミーとミルクコーヒー

拠点に戻るとガイドさんが簡単な軽食とコーヒーを作ってくれた。身体の隅々まで染み渡り自然と声が漏れる。買ったら50円しないのに最高の贅沢と思えるのは今日という日を乗り切れた安堵からか。

Khusnulさんも戻って来たが表情が険しい。なんでもデカいロイヤルトーマンをバラした挙句ボウズをくらったらしい。私なら立ち直れないだろう。写真映えするように大物のみを狙っていたからか、思うような結果が出ずに本気で悔しそうだった。

辺りが暗くなり、夜が訪れる。

暗くなってくると同時に蚊が大量に発生してきた。明るいうちは一切見かけなかったのに一瞬で身体中を刺される。すぐにガイドさんが蚊取り線香を焚き、みんな虫除けローションを塗りたくる。

晩御飯の支度、船頭さんがロイヤルトーマンを切り分ける。

というか光源が少ない。私はカンテラと手持ちライトを持って来ていたが、他には誰もライトを持ってきておらず、船頭さんのライト以外は私が持ってきたライトだけだった。流石に何やってんだと突っ込んだ。

ロイヤルトーマンの唐揚げとサンバルで白ご飯を頂く。

気になるロイヤルトーマンの味は美味い。まあ唐揚げにすれば大体の魚は美味しいのだが、生臭さは一切無く、身がしっかりしていて食べ応えがある。昨日街で食べたトーマンでも思ったが、ライギョは基本美味いのだろう。もしかしたら私の人生で食べた一番高価な食事かもしれない。

辺り一面は湿原だ、ワニが入って来そうで怖い

本当は夜釣りもしたくてミミズも買って来たのだが、気力が無くリーダーに針と重りをつけてミミズとロイヤルトーマンの身を餌に拠点の下に何個か放り込んでおくだけにした。なんでも家屋の下はワラゴーレイリーがいるらしい。

晩御飯を食べてコーヒーを飲んだら時刻は夜の8時、まだ早い時間だが疲れているので皆で寝ることにする。

奥で寝ているとふいに指先がザリガニに挟まれたような痛みがして飛び起きた。急いで確認するとネズミが走っていった。指を齧られたらしい。幸いにも傷にはなっていなかったがアルコールシートで慌てて拭きまくる。

最悪だ…1分でも早く家に帰りたい。でもあのワニのいた所を明日また通らないといけないんだなあ…

泣きそうになりながらも再度目を瞑り、ただただ帰ることを考えながら眠りに落ちていく。

どうか無事に帰れますように…

その③に続く

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