先月末に大雨の中フライを初体験していた翌日、驚くべきニュースが入ってきた。
なんと私の住む地域から割と近い西ジャワ州のGarut県にて大雨による洪水の後に2匹のピラルクが打ち上げられたというのだ。
後々の調査でアメリカ人が所有する飼育池が洪水で氾濫し、逃げ出した10匹のピラルクの内の2匹ということだが他の8匹は見つかっていないという。
東ジャワにある大きなブランタス川という川では2018年に8匹のピラルクが放流され大捕物劇がニュースで報じられていたがこれがきっかけで多くの魚に対し輸入制限や飼育制限がかけられることとなった。
そしてこのブランタス川は近年の調査で川に生息する魚の85%がティラピアとプレコに入れ替わっていたという報告がある。
そんな外来種天国のインドネシア、今回はインドネシアに定着している外来種に注目していこう。
インドネシアの庶民が食べる魚と言えばティラピア、Ikan Nilaと呼ばれるナイルティラピアは至る所で養殖され、放流され各地に定着している。
アフリカが原産だがインドネシアに初めて来たのは1960年代に台湾から輸入されたと記録にある。
よく似たモザンビークティラピアもIkan Mujairと呼ばれインドネシアに定着している。
これらの魚は割と大きくなる上に雑食と生態系を狂わせる大きな一因となることは間違いない。
レッドデビルもインドネシアの侵略的外来種として最近問題になっており、レッドデビルの定着した湖のティラピアやコイの漁獲高が減り、代わりにレッドデビルが爆増しているそうだ。
外来種がインドネシアに入って来る理由は様々だ、食用に導入されたもの、観賞用に入ってきたものが後に広がったもの、蚊の幼虫対策などがある。
怪魚釣り堀でおなじみのコロソマは1986年に鑑賞用として初めてインドネシア入国を果たしたがその後食用として注目され養殖が盛んになった魚である。
釣ってよし食べてよしの魚だがやはり養殖場から逃げ出したものが定着しているようでこの巨体と獰猛さで雑食は生態系に大きな影響を及ぼすだろう。
Patin Siamのシアムとはシャム、すなわち旧名のタイのことであり外来種である。
1972年に種魚がタイから移入されたカイヤンもインドネシア全土で養殖され自然環境でも定着している。
同じくタイから来たSepat Siam、スネークスキングラミーは1934年に食用として初めてスラウェシに持ち込まれ、現在はインドネシア全域及びパプアにまで広がっている。
クラリアスは元々ジャワ島では Clarias batrachusが生息しており昔から国民に親しまれてきた。
しかし1985年にアフリカより大型の Clarias gariepinusが移入されてからは現在までに肉質の向上と早期の成長を目的に様々な交配種や品種改良種が登場し、インドネシア各地に広まっている。
アフリカンクララは現地ではLele Dumbo、巨大なナマズとしても知られており、釣り堀などでも見ることが出来る。
コイはインドネシアで最も古い外来魚となっており、何と1800年代には既に中国から伝えられ食用として養殖されている。
Ikan Masと呼ばれ釣り堀の競技対象種や観賞魚としても人気であり、日本からも様々な品種が輸入されたという記録がある。
このようにインドネシアに現在定着している外来種の多くは食用として導入されたことが始まりとなっている。
インドネシアを代表するゲームフィッシングの対象種であるトーマンも元々はジャワ島には生息しておらず、一部の釣り愛好家などが放流したものが定着しているとのことだ。
養殖などはされていないので定着している場所はいくつかの貯水湖のみに留まるが、食物連鎖の頂点とも言えるトーマンの生態系への影響は強いだろう。
私の大大大好きなベリーダも今は絶滅危惧種、しかしこのスポッテッドナイフだけは外来種として世界中に広まっており、インドネシアの貯水湖などで増えて来ている。
ネットで拾った外来種のポスターにはガーも含まれており、定着している場所があることを示している。
実際にレッドテールやシルバードラーなど、観賞用に輸入された数々の外来魚がインドネシアの各地で発見されているようだ。
当然と言えば当然だがガーにしろレッドテールにしろ数百円でそこらの道端で売っているのだ。
誰でも買えるし誰がどこに放したかなど追える筈がない。
インドネシアの水域には密かにモンスターが放流され増えている可能性は十分にあり得るのである。
というわけで近くのドブや小川、田んぼの側溝などでガサガサして来た。
以前フライ一式を通販で買った際にいい感じの網を見つけたからである。
今まで近所の釣具屋や熱帯魚屋ではまともな網を見たことなかったのでこれはテンションを上げざるを得ない。
休みの朝に散歩がてら網を持ってひたすら歩く、コンパクトなので広げるまでは不審者に見えない筈である。
最初に訪れた小川ではソードテールとグッピーが網にかかった。
どちらも観賞魚として入ったものを蚊を減らす目的で田んぼに放したものがインドネシア各地に広まったようだ。
近くの川を通りかかると現地のオッさんが何人か投網を投げていた。
上から見学をしていると網に魚が掛かっているのにその辺の草むらに捨てている。
オッさんに捨てるんだったら投げてくれと頼んでみると素晴らしいコントロールで私の手元まで飛んで来た。
漁港のクサフグのような扱いを受けていたのはインドネシアではIkan Sapu、箒魚と呼ばれるプレコだった。
もちろんプレコも外来種であり、観賞魚というより水槽を綺麗にする魚として入ってきたものを川のコケを減らす目的で放流したら川底を埋め尽くす程に増えてしまい社会問題になっている魚だ。
硬い鱗はフィッシュイーターを跳ね除け、天敵の筈のインドネシア人すら食わないという、もはや増えるべくして増えた魚と言えるだろう。
ちなみに一般的ではないがプレコを食べる人もいるにはいる。
そのまま火に放り込んで加熱するらしいが汚い川でヘドロ食っているようなやつは臭そうだ。
最後にやって来たのは悪臭漂うドブ、本来なら網を漬けたくもないが、先ほどの小川で掬っていたら速攻で買ったばかりの網が折れたのでもうやぶれかぶれである。
採れたのはカダヤシとグッピー、在来種の姿は見る影も無い。
環境への適応能力の違いか、汚いドブである程にグッピーやカダヤシを見かける。
これがもうちょい田舎の田園地帯とか山なら違ったのか、結局この日は外来種以外の魚を見ることは無かった。
当然インドネシア国内で在来種を守ろうという動きはある。
しかしこの現状を見るに、ジャワ島での在来種の未来は明るいものでは無いだろう。
インドネシアで定着している外来種の多くは昨今の日本でも定着し始めているものが多い。
自国の在来種を守る為にも外来種問題は対岸の火事ではないということを我々も真剣に考え無ければならないのだろう。
コメント